炎症は、免疫系が体を治癒しようとする方法である一方で心不全の発作と関与している可能性もある。これを調節する細胞、つまり免疫細胞は、エネルギー源であるミトコンドリアに大きく依存している。しかし、心不全患者の炎症状態の上昇が、循環免疫細胞の中にあるミトコンドリアの機能異常によるものなのかどうかはまだ解明していない。
Zhouらは「Journal of Clinical Investigation」に掲載した論文の中で、免疫細胞におけるミトコンドリアと炎症と心不全の関連性について調べる臨床試験(NCT03727646)の結果を示した。ワシントン大学の研究チームは、患者の心臓炎症が免疫細胞である末梢血単核細胞(PBMCs)のミトコンドリア機能低下に関係していることを突き止めた。心不全患者には、ミトコンドリアの基本分子であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であるニコチンアミドヌクレオチド(NR)を投与することで、PBMCsのミトコンドリア機能を増強し、炎症反応を減少させることができる。この研究結果は、NAD+を増加させることが心臓病の予防に役立つ可能性があることを示した。
NAD+はマウスの心臓の治癒を助ける
ミトコンドリアの機能を高めるのに重要なNAD+レベルは、炎症を減少させ、マウスの心臓を保護できることが既に証明されていた。これらの観察結果は、NAD+レベルが心不全患者に有益である可能性を高めた。しかし、NAD+を増やすことによって心不全患者の炎症を制御するために循環免疫細胞のミトコンドリア機能を助けるかどうかは、まだ確定できない。
NAD+は心臓病患者に保護作用がある?
Zhouと同僚たちは心不全で入院した患者19人のPBMCミトコンドリアの機能を健康な被験者19人と比較した。その中、心不全患者はPBMCsのミトコンドリア機能が低下していると同時に免疫系の細胞と血液細胞の成長と活動を制御するのに重要な小さなタンパク質である炎症誘発性サイトカインのレベルも上がっていることが見られた。
彼らは、心不全患者がNAD+の前駆体NRを内服させた前後の5〜9日の血液を検査した。内服用NRに関する試験管理によると、5人の心不全患者は用量をアップグレードしたNR(250 mg、1日目1日2回、2日目500 mg、1日2回、3日目1000 mg、1日2回)を5 〜9日間服用した。
NAD+とNRを増加させることで、心不全患者のミトコンドリア機能が強化され、炎症誘発性があるサイトカインの増加も減少させた。研究結果によると、NRの作用は、炎症誘発物質が存在しているにもかかわらず、ミトコンドリアの機能を維持し、有害分子である活性酸素の生成を減らすことである。
NRは心不全患者のミトコンドリア機能を増強する。
本研究は、心不全患者の末梢血免疫細胞の炎症活性化におけるミトコンドリア機能の重要な役割を明らかにした。また、NAD+レベルの増加は、ミトコンドリアの機能を改善し、PBMCsによる炎症を軽減する可能性があることを示していた。循環免疫細胞の炎症誘発活性化を防ぐことで全身の炎症を防ぎ、系統が病気に陥る悪循環から抜け出すことができる。
NRは心不全患者における炎症を引き起こす分子の生成を減少させる。
NAD+と心不全の関わりはまだ臨床試験が必要
しかし、この研究にはいくつかの面で限界がある。例えば、少量で治療期間が短い(5〜9日)実験では、心不全患者にNRを投与することは、NRの効果と安全性と関する結論を制限した。これらの結果は、将来の臨床試験が潜在的な抗炎症効果を研究する機会を提供する。
「我々の知る限りでは、この研究は、NAD+の増強が、人間の心不全において抗炎症作用を有するかどうかを検証する最初のものである」と研究者は記事の中で述べている。「現在のところ、人体の有効性に関するデータは不足しているが、NAD+が心臓機能を保護し、全身の炎症を減少させる上での共同作用は、新しい心不全治療の分子的基盤を提供する可能性がある。