アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、2018年には推定570万人のアメリカ人がアルツハイマー病に罹患して生活しているという。アルツハイマー病は、日常活動を行う能力に深刻な影響を与え、思考、記憶、言語を制御する脳の一部の悪化を伴う可能性がある。
科学者らは、正確な病因は分かっていないが、遺伝的要因、生活習慣、および環境要因の組み合わせがアルツハイマー病の発症を引き起こすと考えている。発症の病状として、脳細胞の機能が障害され、損傷を受けた脳細胞がつながりを失い、頻繫に死滅する。脳内では、異常なタンパク質は、プラークを形成する有害なβ-アミロイド(ß-amyloid)の蓄積や神経原線維変化というタンパク質変化など、正常な脳機能を混乱させる。病因の解明と治療オプションをより明らかにするために、継続的な研究が期待られる。
2017年、上海同済大学と南京医科大学の研究チームは、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)がマウスにアルツハイマー病の影響を逆転させることを発見した。NMNは細胞内のニコチンアミド·アデニン·ジヌクレオチド(NAD+)のレベルを上昇させ、研究者らはそれを動物モデルにおける加齢性疾患の改善と関連している。NMN分子は、アルツハイマー病マウスの認知機能を改善するだけでなく、脳内の毒性タンパク質の産生を減少させ、アルツハイマー病による炎症反応を減少させた。
研究チームは、NMNで治療されたマウスで、認知機能の指標である空間学習の大幅な改善を発見した。アルツハイマー病マウスは空間学習タスクでのパフォーマンスが低下したが、NMNで治療されたアルツハイマー病マウスは認知パフォーマンスが改善され、一般のマウスとほぼ同様に機能した。
アルツハイマー病マウスは、NMNに投与した後、認知を測定するタスクでパフォーマンスが向上した。WTは一般のマウスを、Tgはアルツハイマー病マウスを表す。右端のバーは、NMNを投与されたアルツハイマー病マウスが一般のマウスとほぼ同様に機能することを示している。
NMN治療はまた、アルツハイマー病マウスの脳内に蓄積するプラークを形成する毒性タンパク質であるアミロイドβオリゴマー(amyloid ß oligomers)のレベルを低下させた。研究者らは、脳内に蓄積されたプラークを頭微鏡で観察した結果、アルツハイマー病マウスのプラーク量がNMN治療後に減少したことを発見した。
NMNはアルツハイマー病マウスの脳内に蓄積するプラークを減少させる。左の図は、マウスの脳内に蓄積した褐色プラークを示している。右の図は、NMN治療後、マウスの脳内に蓄積した褐色プラークの減少を示している。
NMN治療はアルツハイマー病マウスの神経炎症を改善させた。神経炎症に関連する分子レベルは、NMNで治療されていなかったマウスと比べ、NMNで治療されたマウスではそのレベル低いと示された。
「研究結果によると、NMNは[アルツハイマー病]疾患修飾療法の新たなターゲットとなる可能性がある。」と著者らは述べている。マウスの認知機能を大幅に改善させ、アミロイドプラークの蓄積を低下させ、神経炎症を改善させることで、NMNは将来、アルツハイマー病への貴重な治療オプションを提供する可能性がある。
出典
情報源:
Yao Z, Yang W, Gao Z, Jia P. Nicotinamide mononucleotide inhibits JNK activation to reverse Alzheimer disease. Neurosci Lett. 2017;647:133-140. doi:10.1016/j.neulet.2017.03.027.