世界人口の高齢化により心血管疾患とも呼ばれる心臓病の治療法に関する開発が迫られている。心血管疾患は、先進国において主な死因を占めている。高齢化は心血管疾患の主な危険因子であり、2050年までに高齢者の数が少なくとも2倍になると予想されている。
2016年、コロラド大学の科学者は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)がマウスにおける血管機能障害を逆転させることを実証した研究をAging Cell 誌に発表した。加齢と蓄積のコラーゲンに伴い、血管機能障害は血管硬化を引き起こす。そのコラーゲンとは、組織の構造的な整合性を提供するタンパク質である。また、加齢に伴って血管内のエラスチン(組織の弾力性を与えるタンパク質である)が減少することで、血管が硬くなり、多くの場合心血管疾患を引き起こすことが多い。NMNのような血管機能障害を逆転させる可能性のある治療薬が見つかれば、心血管疾患になるリスクは低くなれる。
NMNは細胞内のニコチンアミド·アデニン·ジヌクレオチド(NAD+)レベルを上昇させる。NAD+濃度は加齢とともに低下するが、これは心血管疾患などの複数の加齢性疾患の発症と関連していると科学者らは指摘している。従来の研究では、高齢動物においてNAD+レベルを高めると、SIRTIというタンパク質が活性化され、代謝反応やストレス応答が改善されることが示されている。
SIRT1は、代謝の健康と染色体の完全性を維持する上で極めて重要な役割を果たすサーチュインタンパク質ファミリーのメンバーである。このタンパク質は、NAD+のバイオアベイラピリティーに依存して作用する。SIRT1は、全体的な細胞の健康に不可欠なタンパク質であり、細胞内で利用可能なNAD +レベルが低くなると、これらの機能を実行する能力を低下させる可能性がある。研究チームは、NMNでNAD +レベルを高めるにより、大動脈のSIRT1活性を向上させるかどうか、そしてそれが高齢マウスの血管機能障害を逆転させるかどうかを究明したいと考えていた。
高齢マウスに一日中で少量のNMNを飲用水に投与させた結果、大動脈の硬直が正常化になり、心臓の健康状態が改善された。高齢マウスではNMIN投与後、コラーゲン量の減少とエラスチン量の増加がみられたが、若年マウスのそれと有意差はなかった。結果は、大動脈の弾力性が改善され、大動脈硬化が正常化することを示している。
NMNは高齢マウスにおいて大動脈のコラーゲンを低下させ、エラスチンを増加させる。左のグラフは、高齢マウスではコラーゲンのレベルが顕著に高いことを示している。それはNMNがそれを低下させ、逆転させる。右のグラフは、高齢マウスのエラスチンのレベルが顕著に低いことを示している。それはNMNの投与によりエラスチンを上昇させ、逆転させる。
NMNの補給により動脈内のSIRT1も活性化した。高齢動物では動脈内のSIRTIレベルが約50%低くなった。NMNは高齢動物においてSIRT1のレベルと活性を上昇させた。SIRT1は特定のタンパク質のアセチル基という分子タグを除去する。研究チームは、NMN治療後、特定のタンパク質でこの分子タグの減少を測定した。言い換えれば、これらのタンパク質のアセチル化または分子タグが減少られた。
NMNの補充によりSIRT1発現を増加させる。一番左側のバーは若年マウスのSIRT1発現を、真ん中から左側のバーは高齢マウスのSIRT1発現を、右端真ん中から右側のバーはNMNを与えられた若いマウスのSIRT1発現を、一番右側のバーはNMNを与えられた古いマウスのSIRT1発現を示している。
「全体として、私たちの発見は、NMNの補充により動脈老化の治療において良い転化潜在力がある最初の証拠を提供していた。」と研究者らは述べている。
NMNの補給が血管機能障害を改善させるメカニズムは、NAD +でSIRT1を活性化する可能性があると研究者らは述べている。NMNの投与により老衰動物においてNAD +バイオアベイラビリティを増加させる。またSIRT1はNAD +に依存して作用するため、NMNサプリメントでNAD+レベルを上昇すると、SIRT1の機能が改善される可能性があるという。
出典
情報源:
de Picciotto NE, Gano LB, Johnson LC, et al. Nicotinamide mononucleotide supplementation reverses vascular dysfunction and oxidative stress with aging in mice. Aging Cell. 2016;15(3):522-530. doi:10.1111/acel.12461.
参照論文:
GBD 2013 Mortality and Causes of Death Collaborators. Global, regional, and national age-sex specific all-cause and cause-specific mortality for 240 causes of death, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013. Lancet. 2015;385(9963):117-171. doi:10.1016/S0140-6736(14)61682-2.
Petsko GA. A seat at the table. Genome Biol. 2008;9(12):113. doi:10.1186/gb-2008-9-12-113.